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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)3141号 判決 1990年1月31日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金七〇四八円及び内金三五二四円に対する昭和六〇年一二月二一日から、内金三五二四円に対するこの裁判確定の日の翌日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決七枚目表八行目の「否認する。」の次に「一つの事業場であるか否かは、年休権行使の許否を判断する単位としての事業場概念によるべきであり、事業場の同一性は、使用者が時季変更権を行使する際に考慮すべき業務の属する範囲と一致するものというべきである。そして、年休権行使の許否を判断する単位としての事業場概念を考える場合は、その職場において相関連して一体をなす労働の態様が他の職場に対して一応の独自性をもつか否かを考慮すべきであり、事業目的の独立性、場所及び建物の独立、事務処理能力、職員数などの諸要素を総合して判断すべきである。津田沼電車区においては、」を加える。

二  原判決七枚目裏一一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「したがって、労働者が年休を利用して自己の所属する事業場において実施された争議行為に参加した場合で当該年休の成立が否定されるのは、労働者の年休請求が一斉休暇闘争としてなされた場合のみであって、それ以外については年休の利用の自由の範囲内である。そして、一斉休暇闘争というためには、少なくても、一定規模の組合員の集団による同一時季についての時季指定が必要である。本件が右の一斉休暇闘争にあたらないことは明らかである。なお、原判決は「原告は当時電車区長が…時季変更権を行使したとしてもそれに従う意思はなかった」と認定するが、右認定は誤りであるし、助役の年休承認があったのであるから、時季変更権行使の要件は欠けており、原判決の仮定は誤りである。」

第三  証拠<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決一八枚目裏一行目の末尾に続けて次のとおり加える。

「控訴人の所属する津田沼電車区は、控訴人主張のように、年休権行使の許否を判断する単位としての事業場概念に照らしてみても、一つの事業場であるというべきである。」

2  同一九枚目表八行目の末尾に続けて次のとおり加える。

「なお、控訴人は、年次有給休暇の成立が否定されるのは、労働組合の指令に基づく等の集団的、組織的な一斉休暇闘争の場合のみに限定されるべきである旨主張するが、労働者が組合の休暇闘争指令等とは関係なしに、個人的に自己の発意によって年休を取得して自己の所属する事業場でなされる争議行為に参加しようとする場合についても、その争議行為が事業場における事業の正常な運営を阻害する程度の規模ないし態様でなされる場合には、年次有給休暇関係は成立しないと解するのが相当であるから、控訴人の右主張は理由がない。」

3  同二〇枚目表七行目の末尾に続けて次のとおり加える。

「なお、たとえ控訴人が動労千葉の指令、指示に基づいて前記年休の請求をしたものではなく、また、前記のとおり、控訴人が争議行為の実施日が決定される以前に年休を請求し、その後争議行為の実施時期が確定された日になって管理者に対し年休承認の有無を確認したことがあったとしても、これらをもって右認定を覆すには足りない。また、控訴人は、津田沼電車区における事業の正常な運営が阻害されたのは、列車乗務員による指名ストライキ実施の結果であって、控訴人の参加した集会等の諸行動とは無関係である旨主張するが、前記認定事実によれば、前記の争議行為は、動労千葉の指令に基づき、津田沼支部を拠点の一つとし総武線千葉以西の旅客列車の運行停止を意図して実施されたものであり、列車乗務員によるストライキと控訴人を含むその他の多数の組合員による集会、デモ行進等の諸行動とが一体となって同電車区における事業の正常な運営を阻害したものと認められるから、右主張は理由がない。なお、控訴人は時季変更権の行使を仮定することは許されない旨主張するが、採用出来ない。」

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田尾桃二 裁判官 寺澤光子 裁判官 市川頼明)

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